2011年10月アーカイブ

手袋はどこだ。

日曜。

 

手袋が必要なくらい寒い。

 

(ウィーン)市内某所でバッハとヘンデルを演奏してきた。

 

ヴァイオリニストYuryは、

 

市内別の某所でコンサートのあと飛んできたので、演奏5分前に到着。

 

着いた途端にピアニストJunnaと打ち合わせる。音を出す場所はない。

 

(注:リハは先週に一度やってます)

 

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前の日やその日に時間があって入念にリハーサルができて、

 

楽屋で本番までゆっくり休めて、タイムテーブルも分刻みで先がみえて、

 

そんな中演奏に臨めることが理想だけど、

 

特に某所が日本じゃない場合、結構いろんなことが起こる。

 

だからどんなときも

 

揺るがない心をもって舞台に立たないないといけないのだ・・・

 

というわりには、私はこの急激な気温の変化で体調を少し崩し、

 

それでもなんとか今日までに立て直して

 

自宅で時間をかけてウォームアップをして出発したものの、

 

某所に向かう途中で零度付近の冷気にやられ、

 

某所ではあえて声を温存するために発声練習をしなかったものの、

 

出番直前にちょっと鼻歌チェックしてみると

 

声がうまく鳴らなくなっていることに気づき、

 

楽屋がないのであわててトイレに駆け込んで、

 

1分間だけしっかり声をあたためなおす・・・

 

なんていうことが起こるのだ。

 

だから余裕の笑顔で舞台に出て行ったとしても、

 

心は全然余裕ではない場合もあるのだ。本当はダメだけど。

 

演奏の結果にはいろいろあって、

 

自分が「もっとうまくやれたんじゃないか」と思っていても

 

共演者や聴いているひとが「よかったじゃん」と言ってくれるときもあれば、

 

その逆もある。これはやっかい。

 

今日は幸い前者でした。

 

ただ、自分で「もっとやれた」と思っているうちは、

 

なにがどうだったのかをしっかり客観的に分析して、

 

修正するのが次のステップへの練習なのです。

 

これは同じ曲を次に演奏する5日後までの課題。

 

演奏はもちろん毎回その時のベストを出さないとだめだけど、

 

そのベストはいつも進化していなければならない。

 

日々是鍛錬。毎日修行。

 

それにしても、彼らのようなすばらしい音楽家と今日の演奏のために出会い、

 

一緒に演奏できたことが本日と未来への財産。

 

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ピアニストJunnaとヴァイオリニストYury。

 

Junnaは芸大で在学が重なってないくらい若いみたいだし、

 

ロシア人Yuryは平成ジャンプ未成年だ。モームスよりヤングだ。

 

音楽の霊感に年齢は関係ないのだ。

 

天気予報先生によると、あしたは雪がふるらしい。

こんな空だ。

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ついにきました、秋をすっとばして、こんな空の季節が。

 

みんながおそれている冬です。

 

寒いのはあたりまえで、雪が降るのもたのしい、

 

厚い雲が、この色の空が、ひとびとをおそれさせるのである。

 

それはそれは晴れないのである。

 

こんな長く暗い冬を経験をするから、春のよろこびがひとしおなんだなぁ。

 

今日の最低気温は一度でした。

 

もうすぐ雪がふるでしょう。

 

そんな空がたまにみせてくれるこんな色の、

 

なんといとおしいことか。

 

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なつがなつかしい。

8年後。

2003年10月10日、ぼくは東京の新国立劇場のステージにいた。

 

その日、ソリストとしてすばらしいオペラハウスにデビューした、

 

わかったふりして本当は何もわかっていなかった23歳のワカゾーだった。

 

メイク室で化粧してもらって、衣装もかつらも着せてもらって、

 

世界中から集まった、当時大活躍中の歌手たちと同じ舞台にたち、

 

自分も突然、「オペラ歌手」になれた気がしていた。

 

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このときの「フィガロの結婚」はたしか20日間くらいで7回の公演があって、

 

デビュー戦なりにだんだん慣れた気になってきたぼくは、

 

その全日程のうちの中盤か後半のある公演で、

 

いつもの出番のとき、いつもとちょっと違うことをしてみた。

 

出番を終えて楽屋で衣装を着替えていると、

 

一緒に写真にうつっているペーターが真っ赤な顔でぼくの楽屋に飛んできて、

 

「おい、ダイチ、さっきひとりで違うことやっただろ。

 

気をつけろよ、それはやっちゃいけないことなんだからな。」

 

と叱られた。

 

叱られたんじゃないな、先輩として後輩に忠告してくれたんだな。

 

なにもわかってないワカゾーがこれから失敗しないように。

 

まわりの誰もが年上で、先輩だった。

 

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あれから8年。

 

ぼくの中のことも、ぼくのまわりのことも、

 

音楽のことも、そうでないことも、本当にいろいろとかわった。

 

あのとき、こんな未来を生きているとは思っていなかった。

 

かといって、どこで何をしているだろうという予測もついていなかったと思う。

 

ただ、ああなりたい、こうしたい、こうありたい、と考えていたと思う。

 

最年少でその劇場にデビューさせてもらったワカゾーは、野心に満ちていた。

 

いま、ぼくはあのときとは違う野心をもっているような気がする。

 

あのとき考えていたそのままの自分にはなっていないと思うけど、

 

この「8年後」をわりと気にいっている。

 

「あれから」と同じ時間を「これから」過ごしたとして、

 

そのときどこにいてなにをしているかなんてやっぱり想像もつかないけれど、

 

自分の野心が決めたことにまっすぐに歩いていくことができれば、

 

あるべき未来は結局ひとつしかないのではないかと思う。

 

その未来を、そのときの自分が気に入っていたらいいなと思う。

友よ。

日曜。

 

日本の友たちの声を聞きたいと思う。

 

何人かとネット電話がつながり、久々に話しができた。

 

「で、どうやとや、カウンターテナーは?」と訊かれる。

 

「マタイ受難曲とか歌うっちゃうがね?」と言われる。

 

まさにいま、次のコンサートのために準備している曲だった。

 

音楽家でない、音楽ファンでもないその友の、

 

友であるぼくのことを理解し、知ろうとしてくれる心に感激する。

 

特に日本ではある意味仕方のないことではあるのだけど、

 

「もののけ姫とか歌うんですか?」と言われることが多くなった。

 

テノールから転向したことによるレパートリーの変化は、

 

それはもうまったくといいほどこの15年で覚えた曲とは別物であるけれど、

 

ストライクゾーンとなる作曲家の生きた時代の違い(古いもの中心になる)、

 

オペラやオラトリオの中の役柄、役割の違い(基本的にアルトの人と重なる)、

 

まれに同じ曲を歌うとしても調性(キー)の違い、

 

そういった変化であって、

 

必ずしも「誰も寝てはならぬ」を歌っていたひとが

 

単純に「もののけ姫」にたどりつくという話ではないのです。

 

詳しく説明すると長くなるのでつづきはまた機会があればにしますが、

 

グーグル先生やウィキペディア先生もいろいろと教えてくれるはずです。

 

それにしてもその友はアッパレだったし、その理解度に元気がでました。

 

新しい曲たちとの出会い。

 

最近、新しいレパートリーを開拓、勉強、練習していく中で、

 

歌っていて泣きそうになるくらい美しい曲に出会った。

 

テノールのままだったらこの曲を一生知らなかったかもしれないと思うと、

 

出会いはなにがきっかけかわからないなぁ、と考える。

 

その曲のテキスト(歌詞)が

 

この夏滞在したイスラエルで話されているヘブライ語だった日には、

 

運命を感じずにはいられないわけです。

 

すでに懐かしの夏のテルアビブの美しいサンセット。

 

世界中で陽はまたのぼる。

 

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*『藤木大地』オフィシャルHP

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カウンターテナー歌手。
2012年、日本音楽コンクール第1位。カウンターテナーとして史上初の優勝者となり、大きな話題となった。13年にボローニャ歌劇場にデビュー。14年、15年には N H K ニューイヤーオペラコンサートに2年連続出演し、さらにはウィーン国立歌劇場と14/15シーズンの客演契約を結ぶなど、国際的な活動を展開する、現在最も注目を集めるアーティストのひとりである。東京藝術大学卒業。新国立劇場オペラ研修所修了。新国立劇場にテノールとしてデビュー後、ボローニャ、ウィーンに留学。11年にカウンターテナーに転向。12年国際ハンス・ガボア・ベルヴェデーレ声楽コンクール世界大会にてハンス・ガボア賞を受賞。宮崎市出身。ウィーン在住。
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