2014年12月アーカイブ

ゆく年くる年に。

2014年、演奏会で、放送で、どこかでわたくしの歌を聴いてくださった皆様、陰日向で演奏活動を応援してくださっている皆様に、厚く御礼申し上げます。また、主催者、共演者、スタッフ、所属事務所の皆様、いつも応援してくれている友人、知人、恩師、親戚、家族にも心から感謝します。

2014年のNHKニューイヤーオペラコンサートで始まった今年は、2015年のNHKニューイヤーオペラコンサートのリハーサルで終わりました。これが日本人のクラシックの歌手にとってどれほど名誉なことか。

数日後の1月3日に元気な姿と歌声をテレビで全国にごらんいただくために、2015年の輝かしいスタートのファンファーレの一部となれるように、初出場の際の経験をいかしたイメトレを繰り返している年末です。具体的にいえば、音楽スタジオの壁の先にNHKホールの客席とお茶の間を想像したトレーニングであります。ジャンルを問わず歌番組もみています。1曲を歌うためにこれほど神経を使うコンサートは、わたくしにとってはほかにありません。

けれど思い返せば、まだコンサートの仕事がなかった学生のころ、たった1曲3分の歌曲を大学の実技試験で歌うために、毎日繰り返し繰り返し、試行錯誤しながら何百回と練習したものでした。いま、その頃の気持ちに戻るのです。この曲をできるかぎり上手に届けたい。思うようにできずイラ立ちながら繰り返す中で、必ず発見があります。このプロセスに戻れる機会があることが有難い。こんなプレッシャーと環境の中で集中して発見し続ければ、もっとうまくなれると思うし、うまくなりたいと思う。だから練習する。世の中が休みでも、わたくしは全然休みたくないのです。ごちそうも終わってからでいい。

今年は、NHKニューイヤーオペラが終わって、オーケストラ・アンサンブル金沢との4都市ニューイヤーコンサートがありました。中村恵理さんとの共演は同世代の歌手として最高に刺激的な音楽経験であったし、その後大変な思いをされた井上道義マエストロが復活されてほんとうに嬉しかった。

桜咲く東京・春・音楽祭での忘れがたい2公演、もちろん宮崎での恒例の大作戦!、NHKでの名曲リサイタルの収録、京都での新作モノオペラ、東京での第九、福岡での初めてのメサイアなどの興行的公演の傍らに、ライフワークで続けていきたいアウトリーチが宮崎キャラバンと広島で。どれも鮮明に思い出すことができます。多くの出会い、再会がありました。その度に心があたたかくなりました。

自分の音楽を高めてくれ、また高め合える素晴らしい共演者と、情熱と理解のある主催者やスポンサーと、熱狂的で好奇心旺盛なあたたかいオーディエンスのおかげで、音楽を仕事にできてよかったな、演奏を続けられてうれしいな、と思える瞬間に恵まれています。改めて感謝申し上げたいと思います。

2015年のすでに発表されている予定は、たいへんバリエーションに富んでいます。

まず国内では、首都圏の主要ホールによる主催プロジェクトへの初登場が続きます。トッパンホール(4月)、フィリアホール(7月)、東京オペラシティ(9月)、王子ホール(10,11月)。演奏家としてはいつどんなオファーでもお引き受けしたい名門ホールの数々で、それぞれまったく違うリサイタルプログラムでお目にかかります。時代はバロックからロマン派を経て2015年の委嘱新曲まで、共演楽器も幅広く、ピアノ、ギター、リュート、バロックハープ、古楽アンサンブルと、すばらしい演奏家のみなさんで予定されています。最近ご縁の増えた関西では、まさかわたくしのキャリアで演ることがあるなんておもっていなかった有名オペラのとある役を大好きないずみホールで(11月)、ザ・シンフォニーホール(11月)では、フォーレのレクイエムの天使のようなソプラノソロ(!)にも初挑戦します。

そして海外では、ウィーン国立歌劇場との初めての客演契約。わたくしがカウンターテナーへの転向を決めたときにとにかく聴きまくり、ある意味で目標にしていた世界一のカウンターテナー、David Danielsのカヴァー歌手(代役)として、ふたつの世界一のオペラハウス、ウィーン国立歌劇場とメトロポリタン歌劇場との共同制作の新プロダクションのメンバーとして、数ヶ月間仕事をします。

カウンターテナーに転向して2015年1月でちょうど4年。
試行錯誤、喜怒哀楽、七転八起を重ね、当時目指していたような場所にどうにかたどりつけた、という思いと、まだまだいける、という思いがあります。どちらも本音だけれど、やっぱりまだまだいきたい。もっと見たい。もっと先のまだ見ていない世界があるはずだ。世界のもっと多くのひとに歌を聴いてもらいたい。そして、誰かが作った既成概念にとらわれず、自分に与えられた声で歌える音楽には挑戦したい。いいご縁があればそろそろCDも作りたいな。

好奇心と向上心をもって、等身大でカッコつけずに、目標は高く、応援してくださる皆様への感謝を忘れずに、音楽と自分の声に向き合って、新しい年を最後までゆきたいと思います。

皆様にとって幸多き一年となりますように。

2015年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

2014年12月31日

モーツァルト!

今月観に行った井上芳雄さん主演の東宝ミュージカル「モーツァルト!」には感激した。そもそも、わたくしのミュージカル観劇歴は芳雄君のキャリアそのものなのだ。ミュージカルにもオペラにも特に興味がなく、歌うことが好きなだけだった大学3年生のわたくしは、同級生にして同門下生たる芳雄君が華々しくミュージカルデビューをするというので、帝国劇場まで応援に出かけたのだ。そこで、日本語がこんなに聞こえてくる舞台芸術とは何と気持ちのいいものだろうか、と感じると同時に、友だちだったヨシオがあっという間にスターになったのをまぶしく眺めていたのであった。

それからつまり14年が経ったわけである。その間ヨシオ君がずっとトップランナーとして輝き続けていることをなにより尊敬するし、その日の舞台の彼は身体と心と歌がつながっていて、ぼくらが歴史上の人物として習うモーツァルトは同時代的にはあんなヤツだったんだ、と信じられた。すばらしかった。と、本人に伝えると、まー12年もやってるからねー、と言っていたけれど。

舞台に立つ者の仕事というか役割は、作品を自分という媒体を通して客席に伝えることだと思う。そこにエゴが出れば出るほど、作品の深さは薄れていく。かといって個の存在感はやはりなければつまらない、という難しいバランスの中で、絶妙を見つけ出す、あるいは自然にやれるのが匠なのだと思います。

ショーを楽しんで心を潤すのに、ミュージカルだオペラだ演劇だとわざわざカテゴライズする必要はないと思う。所属がどうとか、ジャンルがどうとか、時代がどうとか、日本では特にそんな話題をよく耳にするけれど、なにかを分けた時点で可能性をひとつ失うと思うのです。

とにかく、この舞台を通じていろいろなことを考えるきっかけをもらい、たいへんよい勉強をさせていただきました。

10月に放送された井上芳雄さんのウィーン音楽紀行番組が大好評につき早速再放送されます。ウィーンの素敵な風景と芳雄君の魅力が満載ですので、ぜひごらんください。わたくしも同級生のよしみでちょこっと出ています。

12月30日(火)12:00 BSフジ「井上芳雄ウィーン音楽紀行」 詳細


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NHK名曲アルバム。

ireland.jpgあのNHK「名曲アルバム」で1月にわたくしの歌が流れます。2012年10月、ダブリンでのソロリサイタルのとき、アンコールでぜひこれを歌ってくれ、といわれて歌ったアイルランド民謡「サリー・ガーデン」。

あの日のあたたかいオールスタンディングオベーションは一生わすれない。日本音コン優勝の直前でした。何度も訪れた素朴なアイルランドへの愛着と相まって「サリー・ガーデン」は以来大切なレパートリーとなっています。

この曲を名曲アルバムに加えるならフジキの歌で、と指名してくださってたいへん光栄でした。

アイルランドの素晴らしい風景とともに、ぜひお楽しみください!

1月  8日(木)10:25   NHK Eテレ 詳細
1月20日(火) 6:20 NHK Eテレ 詳細
1月25日(日) 4:20 NHK 総合 詳細 


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案内してくれたチャールズと、本物のアイリッシュパブで。


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17年ぶりの舞台。

12月23日、福岡。カーテンコールに何度か出たあと、指揮者の鈴木優人さんが「おめでとう、ジャパンデビュー」と舞台袖でわたくしに言った。メサイアのアルトソロを日本で歌ったのは初めてだった。マサト君がみんなに言っていたみたいで、みんなが知っていた。外国では、ダブリンで一回やったことがあったけれど。

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メサイアは昔から大好きだ。中学時代はハレルヤが卒業式のテーマソングだった。大学時代には学校行事でも外部のエキストラ出演でも毎年何回も歌い、合唱のテノールパートは暗譜で歌えていた。2001年12月12日に東京文化会館での芸大メサイアで初めてテノールのソロを歌ったときは、現時点までのどの公演のときより緊張した。ようやくの「デビュー」の機会に新しく誂えた燕尾服、中学、高校の同級生たちがお金を出し合ってお祝いにプレゼントしてくれたシャツとカフスボタンで出た。13年経って、衣装も代替わりし、サイズも変わったけれど、カフスだけはそのときのもので出た。

オーケストラはとにかく上質だった。学生時代から知っている顔もあって、ほっとした。ソロも同窓会のようだったし、福岡女学院を中心としたコーラスも大人数で楽しかった。みんなで一緒に舞台に立った。久しぶりのハレルヤでは泣けた。そうかメサイアってこんなんだったな、と思った。それを思い出せてよかった。やっぱりメサイアが大好きだった。

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アクロス福岡のシンフォニーホールのステージは実に17年ぶり。高校生のとき、コンクールの受賞記念演奏会で数曲ソロを歌ったぶりだった。井上芳雄さんも、今回のオーケストラにいたヴィオラの吉田篤さんも同じときに同じ舞台に立っていた。戻ってこれるもんだなぁ。1533人の客席のみなさんに感謝。盛り上がった。

福岡在住の高校の同級生とか、中学の野球部の仲間のそのお姉さん親子とか、昔一緒に合唱団で歌っていたお兄さんとか、イタリアでルームシェアをしていた子のご家族とか、京都でお世話になったばかりの方のご家族とか、実にバリエーションに富んだ来客は想定外に刺激的で、こういうことが起こるから、演奏を続けていてよかったなとおもいます。

またやりたい。メサイアと第九は、一年に何回でもやりたいし、何回やったとしても一度たりとも同じものにしたくないな、新しいものを創りたいな、と考えていました。17年ぶりの舞台の上で歌いながら。

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大作戦!のサエコもきたよ。

12月23日(火)13:00 アクロス福岡シンフォニーホール(福岡)詳細

世界初演は成功した。

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12月20日、京都。江戸川乱歩原作、モノオペラ「ひとでなしの恋」世界初演。これまでほとんど縁のなかった土地に延べ20日以上滞在し、音楽作品を創る。アーティスト・イン・レジデンスの形だったと思う。結果的に。誤解を恐れずにいうと、ぼくだけが遠くから来るゲスト、あとの共演者や演奏者やスタッフは全員京都か関西ベースのみなさん、大変温かく仲間に迎えいれてくださって嬉しかった。劇場の専属歌手ではないぼくにとっては、オペラを演るときはいつも客演だから、そこはいつもの形ではあった。迎えてくださったみなさんの全員が顔合わせ初日からフレンドリーで、ぼくが声や言葉や体やその他で表現することに高い興味を持ってくれたのがずっとありがたかった。

夏頃、わりと突然にこのオファーがきたとき「もしフジキがこの話を引き受けたら、このオペラはフジキのために作曲してくださるそうだ」というお話だった。まずもってその申し出がとにかく魅力的だった。おれのためにオペラを書いてもらえる!?、そんな話があるのだろうか、と思って、勝手に自分から口説きおとされた。もちろんプロダクション自体はフジキのためではないのだけれど、送られてきた楽譜を勉強し、曲を歌い込むにつれ、作曲家の増田真結(ますだまゆ)さんは、確かにわたくしのために書いてくださったようだった。わたくしの声域を理解し、音源を聴きこみ、どの声域でどの色が出るのか、その中で特にどこがより魅力的なのか、そのあたりを研究し尽くした楽譜だった。なので、それなりに長い稽古期間、声に無理な負担をかけることなく過ごすことができた。無理のない音域で書かれているからだった。ついにオペラを書いてもらった!そのことがこのプロダクションで最初に嬉しかった。

演出家の山口茜さんは、一度も怒らずにまずはなんでも好きなようにやらせてくれた。共演者のダンサーの松尾恵美さんも、なんでもやらせてくれた。だから自由に動けた。とか言うとまるでわたくしがプリマドンナみたいだけれど、とにかく世界初演、新演出、音楽も芝居も、なんかやってみて、やりながらみんなで世界を創っていく作業だった。

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指揮者がいない公演で、ピアノの中村圭介さんはとにかく助けてくれた。邦楽の中川佳代子さんと打楽器の上中あさみさんとは音楽で話した。舞台監督のさかいまおさんはいつも全てを俯瞰しているとてもバランスのとれた人だった。照明の茜さんと音響&舞台スタッフの皆さんは、一晩の夢の世界をつくるために打ち上げにも参加できずに準備と後片付けを担当してくれた。主催の京都芸術センターのみなさんは、新しいものをとにかく創ってみることに好奇心と情熱を注いでくださった。衣装作家の南野詩恵さんには、ぜひこんどコンサート用の衣装を一枚作ってもらおうと思っている。

ありがとう、京都。
またやりましょう。次やるときは世界初演じゃないよ。

今年ふたつめの大入り袋。満席の客席に感謝。
ひとつめのと一緒に、お守りにしていつも持ち歩きます。

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12月20日(土)18:00 京都芸術センター(京都)詳細

作曲家。

2014年もあっという間にクリスマスである。街のクリスマスソングにポジティブに親近感のないきょうこの頃、京都産新作オペラの世界初演にむけた稽古も佳境であります。どのくらい佳境かというと、しあさってが本番であります。京都にはこのオペラのために11月から3回通いました。新幹線にあまり乗る機会のないわたくしが、車内販売のホットコーヒーの値段を覚えるくらい新幹線に乗りました。310円であります。

オペラのたびに毎回書いている気がするけれど、オペラの本番が近づくということは、つまり別れの準備であります。土地との別れ、仲間との別れ。今回のプロダクションのカンパニーはとても小さい。歌手ひとり(わたくし)、ダンサーひとり、演奏チーム(ピアニスト、箏&三絃&地唄、打楽器)、戯曲家兼演出家ひとり、作曲家ひとり、舞台チーム(舞台監督、照明、衣装)、制作チーム、合計20人くらいかな。オペラのカンパニーだと最小ユニットの部類だと思う。だからアットホームだし、対話も多い。食事も何回も付き合ってもらった。おばんざいばんざいである。こんな小さいカンパニーでも、公演がおわったらもう全員揃うことはない。たぶん。だから、この空気は一生のうちのあと3日なんだよね、と考えると1日の重みも増すわけです。

その増田真結さん(京都オペラの作曲家)にしても、先日観た井上芳雄さん主演の東宝ミュージカル「モーツァルト!」(たぶん改めて書きます)に出てくるモーツァルトさんにしても、最近はリアルな作曲家の存在にわたくしのフォーカスが当たっています。かつて音楽室の壁に飾られた歴史上の人物が作曲した、教科書に載っている歌曲をカタカナ読みでどうにかリズム通りにできるだけいい声でできるだけ感情豊かに歌っていた時分を考えると(それはもちろん必要なプロセスだった)、いやいや、おれからみたらモーツァルトは歴史かもしれないけど当時のひとから見たら同時代で、いま自分がやっていることはただ歴史が繰り返しているだけのことなのだ、というその気づきは計り知れない破壊力で、そんな気づきを与えてくれている作曲家や公演、いただいた機会をとりまく皆さんひとりひとりに感謝しているのです。


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土曜日、京都でお会いしましょう。

12月20日(土)18:00 京都芸術センター(京都)詳細

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カウンターテナー歌手。
2012年、日本音楽コンクール第1位。カウンターテナーとして史上初の優勝者となり、大きな話題となった。13年にボローニャ歌劇場にデビュー。14年、15年には N H K ニューイヤーオペラコンサートに2年連続出演し、さらにはウィーン国立歌劇場と14/15シーズンの客演契約を結ぶなど、国際的な活動を展開する、現在最も注目を集めるアーティストのひとりである。東京藝術大学卒業。新国立劇場オペラ研修所修了。新国立劇場にテノールとしてデビュー後、ボローニャ、ウィーンに留学。11年にカウンターテナーに転向。12年国際ハンス・ガボア・ベルヴェデーレ声楽コンクール世界大会にてハンス・ガボア賞を受賞。宮崎市出身。ウィーン在住。
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